From Katuji Tani

温暖な自然を生かす

        谷克二

スイスに学ぶ

 のっけから私ごとで恐縮だが、この原稿は旅先のチューリッヒでかいている。ホテルの窓からはチューリッヒ湖のひろがりがのぞめ、暗い水面には無数の雪片がまいおちている。冬のスイスは夏にみる光に満ちた観光国とはちがい、気のめいるような雪雲のもとで鉛(にび)色におしひしがれている。

 旅立つ前、私は終日を宮崎の町で過ごした。十二月の半ばというのに空は陽光がみなぎり、冬とは思えないほどの温かさで道いく人にもコート姿は少なかった。  このコラムをかくにあたって、スイスを取り上げてみたのは故がないわけではない。国と県との違いはあっても、その土地がもっている条件に共通点をふと感じたからである。

 故郷を離れて住んでいると、故郷の人々が口癖のように言う言葉できわだった響きをもつものがあることに気づく。その一つに「宮崎県には何もない」という自嘲めいたつぶやきがある。果たしてそうかな?とおもいかえしたくなるのは、おそらく県外に出ている宮崎人ならだれしもがもつ心の波だちではなかろうか。かって、宮崎に住んだ知人夫妻がいて口癖のように「宮崎に帰りたい」と言っていた。てっきり宮崎県の人だと思っていたら、夫婦とも別の県の出身者であったので虚を突かれる思いがしたことを覚えている。「いろいろ移り住んだが、あんな住みやすい土地はなかった」とその知人は言う。温暖な気候、緑の山、群青の海。それらが何より心に残ったというのが知人の言であった。


         

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